2017年10月13日金曜日

スプーン

8月の暑い日。

友達から、ママ友のうちのくみちゃんが亡くなったと電話があった。
くみちゃん(仮名)は、うちの子と同じ3歳だ。
親からの遺伝で生まれた時から眼球に癌があって、生まれて間もなく片方の眼球は摘出してしまっていた。

先月、盲人ママ友会で会った時には子供たち同士元気よく走り回っていたんだ。

生まれたときから眼球に癌があると、夜になるとその眼が猫の眼のように光っているようにみえるんだそうだ。
主治医から、見えている眼に転移するから早く摘出しましょうと言われて、もう手術日も決まっていたとのことだ。

Yは、せめて最後にきれいな海を見せておいてあげたかったと言う。
だから、少しだけ手術日を先にしてしまったんだとも言っていた。

それで、おばあちゃん達とみんなできれいな波を見て、砂浜を走り回ってきた。
海辺の夕風は気持ちよく、くみちゃんもくみちゃんのスカートも踊りまくっていたらしい。
足を砂だらけにして貝殻も拾っていたことだろう。

家に戻ると、疲れたのか頭が痛いと言ってくみちゃんは横になっていたらしい。

カレーが食べたいと言うんで大急ぎで作ってあげたという。

Yはくみちゃん抱っこして、フーフーしながらカレーをスプーン1杯、口に運んであげたという。

「おいしいー。」

くみちゃんは、はっきり言ったという。

それから、すやすやとすやすやとyのひざの上で、腕の中で眠り続け、くみちゃんもyも知らぬ間にくみちゃんは神様のお膝の上に、腕の中に移って行ってしまっていた。

「くみはね、死んでしまっても体はずっとあったかくてね、だからね、冷たくならないようにずーっと抱っこして体中なでていたの。
震えたり、びくっともしなかったから痛くはなかったはずなの。」

Yも全盲の夫婦だ。
度重なる病院通いに、入院での看護は相当辛かったはずだ。
私たちは配膳の上げ下げもできないのだから。

今年もその命日の日、やっぱり思い出してそっと手をあわせたんだ。

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