2017年10月12日木曜日

ふすま

わたしが7歳の時のこと。

私は大学病院の医療ミスで全盲になり、訳も分からぬまま実家に連れ戻され、厚い綿の布団をかぶってふすまの脇で寝ていた。
夜だったのか、朝方だったのかさえ分からない。

ここは病院ではないから、もう腕や足のあちこちに注射をさされることもないし、苦い薬を飲むこともないし、
耳に水を入れられたり、鼻に管を刺されたり、ヒモで縛られたりもないってことが最高に嬉しかった。

検査検査といって冷たい機械の間に押し込められることもなくなった。

ふすまの向こうの父と母との話を聞くともなく聞いていた。

「あれじゃ仕事も出来ねえし、嫁にも行けねえ。
あんまやらせて、町にうち作ってやって、面倒みてやんなけりゃあな」

ゆっくりと静かに話していた。

私は幼心に親たちが描いている私の未来がぼんやり空想できた。

目をいっくら開いても真っ暗で何にも分からない今。
きっとそうなっていくんだろうと考えていた。

でも、ならば仕事が出来るようになってお嫁さんになれたら、
おとうちゃんもおかあちゃんもきっと喜んでくれるんだろうなぁ、とも思っていた。

あのふすまの向こうの声を聞いたときから私の夢は仕事をすることとお嫁さんになることとになった。

で、上手くいったらママになってケーキやクッキー一緒に作って椅子のあるテーブルに座って食べることがプラスの夢になった。

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