4畳半の畳の部屋だった。
古いアパートのひとつ。
窓際まで連れていってもらって座ってみると、窓の敷居が胸の高さくらいで網戸だった。
その脇には大きな本立てがあって、ぎっしり本が並んでいた。
私が高校生のとき、初めて男性の一人暮らしの部屋に行ったときのこと。
盲学校に来てくれていた大学生のボランティアの大好きだった人のひとりだ。
部屋のすみにはガス台があるようで、あつあつのカップを持ってきて
「ホットミルク」と言って両手の手のひらの中に静かに渡してくれた。
牛乳って、飲むと唇が白くなるんだっけか?
どきどきする胸のなか、頭のなかは冷静だ。
少しずつ静かに頂きながら、何の本があるかを尋ねてみた。
バイロン、ベルレーヌ、ゲーテ、ハイネ、シェークスピア、スタンダール……
わあ、詩だ!
司馬遼太郎、柴田錬三郎、吉川英治、吉村昭……
著者名や題名を読んでもらいながら、私もきっとこれと同じの読みたいし、絶対読む!
と誓っていた。
何か読んでみようか。
となりに座ってくれて、ひざの上に詩集を開いて、ゆっくりページをくっていく。
なんてすてきな音なんだろうか。
バイロンの詩だった
もちろん恋の詩。
そんな詩、恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもない。
みっつ、よっつ、読んでもらった。
「さ、帰ろう」
えっ?もう?
さっき来たばっかりじゃん。
「はい」
しおらしく返事して静かにカップを戻す。
やっぱりね。期待していたのになあ!
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