2017年9月28日木曜日

お化粧

ランナーにとって レースでのロードは舞台だ。
大勢の人たちが応援してくれているし、たくさん写真もとられる
プロのカメラマンみたいな人だっていて、レース後ネットで見られたり写真を買うことすらできる。

私は趣味が走ることなので、盲人のランニングクラブの仲間たちとレースに参加したりもする。
ガイドの人に一緒に走ってもらうんだ。

私はお化粧道具をそろえていって
近くに居合わせた、気さくそうな女性にお化粧をお願いする。
「うんと派手にしてね」

レジャーシートの周りではみんなレース前の準備とおしゃべりと笑い声でにぎやかだ。
お天気でよかった。

私はお化粧してくれる人の手に鼻息をかけないように、じっと息を止めておく。
「日焼けクリームは塗ったの?下地は?」

などと聞いてくれたりもする。

アイシャドーやまゆのところは肝心だ。
目の周りのたるんだ皮膚をのばしながら、筆やチップがこすられていく。
チークもしっかり乗せてもらう。

「美人にできたよ。」

私はお礼を言って顔をあげる。
目をパチパチしてみる。
胸を張って、顔を上げて写真も撮ってもらおう。

いつもより綺麗になっていると思うだけで、体が軽くなってタイムも上がりそうだ。

「私がさ、お化粧してやったのよ。
まゆがぼさぼさしてたから切ってやってね。
人のまゆ書くのは難しいのよね。見てあげてよ。」

私にお化粧してくれた、その女性が周りの人たちに、男性たちにも得意げに、大きな声でいっている。

「言わないで!お願い言わないでください。」

口と耳の穴から叫び声がとびでそうだ。
今日は綺麗ねっと言われたらあの人にお化粧してもらったのって答えるのに。

「ほんと、綺麗になってるじゃないの」

わざわざ言いにくる人もいる。

「そうなの。」

私は明るく答える。

もうあの人には決して頼まないもん。
今でも声が聞こえてきそうだ。

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