2017年10月31日火曜日

白杖マナー

私が小学生低学年のとき。
どこか、遠足にいった。
私たちはベンチに座っておしゃべりしながらバスを待っていた。

「あっ!」

私の白杖が蹴り飛ばされて、白杖の上部が首だか頭だかを強く打った。

頭の上から担任の先生の怒鳴り声だ。
つまずいたのは先生だった。

先生は私の杖を取り上げると、
そのベンチから少し離れたところに立たせると、こっちへ歩いてきなさいと物凄い剣幕だ。

私はゆく手に杖が出されていることが分かっていたから立ちすくんでいた。

早く歩いてきなさい、と大声がとぶ。
仕方なく私は歩き始め、杖が斜めに出されているところでつまずいて、向こう側に転んだ。

椅子に座っているとき、うっかり長い白杖を真っすぐに立てておかずに
上部を肩にもたせかけて白状の先を通路の方へ出したままにするのはもっての外だと。

白杖は使わないときには必ず真っすぐに立てておかなければならないこと。
つまずいた先が階段だったりしたら非常に危ないこと。
また、座っていても白杖を立てていればそれが盲人の旗となって、周りの人に盲人であることを知ってもらえること。
人ごみの中、階段など足元が見にくいところでは特に白杖を振り回すように歩いてはいけないということ。

いつだったか非常に混雑していた駅の階段で
降りるところを確認しようとした時に、私の白杖の先がすくわれたっと思った瞬間、
叫び声が上がって、女性が階段から落ちてしまった。

鈍い音がはっきり聞こえた
もちろん私の白杖のせいだ。

「大丈夫ですか?」

少し先で何人かの人の声が聞こえる。

私は階段降りずに、息もできずに立ちすくんで耳をすました。
心臓と手首の脈がドキドキしているまま、時間がすぎた。

救急車がくる様子もなく、私が誰からか責められることもなく、目の前を大勢の人たちが向こうへこちらへと 移動の波は途切れることがない。
確かけっこう遅い時間だった。
慣れない丸ノ内線でのことだった。

私はひとり、誰に状況を聞いたらよいのか、ケガはされたのか、どうやって謝まったらよいのか、ただしばらく立ち続けていた。

バラバラと靴音が階段を降りていく。
何の変わった様子もない。

私は静かに階段を降りて耳をすました。
靴音と何人かの関係ない話声だけだ。

私はまたゆっくり階段を上がってホームに立った。
電車に乗って帰るしかなかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿