池袋のホームに上がると、私の乗る電車はもう入線していた。
日曜日のお昼過ぎだから、並んでいる人もいない。
座れるかな?この電車見送って、20分くらい待って次のに1番に乗り込んで、さっと座っていこうか?
なにせこの急行で1時間いっぱい乗るのだから。
しかも今日は盲人のランニングクラブで頑張って走ってきたもんだから足はだるいし、とにかく座りたい。
いつもの扉から車内に入る。
まずは白杖を床にトントンと弾ませて音を聴く。
床が響く。
人が立っていない印だ。
それになんかがらんとしている。
きっと席は空いているはずだ。
次に扉の脇に立ってそっと手すりから指先を出してみる。
あっ、洋服があった。
だめだ。
じゃあっと反対側の扉に移動して、またそっと手すりから指先を出してみる。
肩があった。こっちもだめだ。
じゃあっと私は一旦ホームに降りて、隣の扉から乗り込んで同じことをしてみた。
運が悪い。こっちもだめだ。
白状を トントンしてみる。
目の前を誰かコッコッと靴が乗り込んできて向こうに行ったかと思ったら音がなくなった。
あのあたりで座ったんだ。
またもう一人乗り込んできて、あちら側で靴音が消えた。座れたんだ。
私は今度は逆側の閉まっているドアへと移動してみる。
運気が変わるかもと思って。
指先で座席チェックをしてみる。
やっぱり両側だめだ。ついてない。
足がだるいし、リュックは重い。
よしっと勇気を出すことにした。
空いている席はないかと白杖を右手に持って私の左側の席を確認していく。
コツッコツッと杖の先が色んな靴の横をなぞっていく。
誰も声をかける人はいない。
けっこう座っているんだ。
空いてなかったのかも。
車内はしんとしていて誰もいないようだ。
っと思っていたら、ちょうどすき間があった。次のコツンまで一人分くらいだ。
やったあ!私はやれやれとばかりにクルッと向きをかえて座った。
「あっ!!!」
びっくりして飛びあがった。
「ごめんなさいっ!」
またクルリと急いで向き直って謝まって、
私は恥ずかしくて、先頭車両へと逃げ込んでしまった。
何でだかこういう時には横に曲がりもせず真っすぐ歩けるんだ。
後ろで連結車両の扉を閉めて大きく溜め息をつく
やっぱ降りて次のへ乗り換えようっと思ったら目の前で扉が閉まってしまった。
電車は走り出してしまった。
ここでも指先チェックで座席を確認したけど、やっぱりダメだった。
さっきは空いていると思って座ったところがおじさんの膝の上だったらしい。
私のももの外側に大きく開かれた膝があったから。
ちゃんと手で席を確認しなかったからあんなことになってしまった。
揺れながらかわりばんこに体重を掛け替えてみる。
成増で扉が開いた。
靴音がいくつかトントンと聞こえて向こうへ行ったかと思ったらまた消えた。
どこか空いてませんか?
と、言ってみようかとも思うけれど、疲れててそんなエネルギーもない。
杖をトントンと床に弾ませてみる。
響く。きっと空いてる。
和光市だ。
ほらね、またあの靴、座れたんだ。
巨人の星の飛雄馬が、練習帰りのバスの中、先輩たちに席どうぞっと勧めたら
「座りたいなら、お前が座れ。」
と、言われて飛雄馬は気がついた。
みな、練習後でも揺れるバスの中、つま先立ちで立っていたんだ。
バーにしっかり掴まりながらそんなシーンを思い出していた。
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