交番のテーブルの上に並べられた品物を一つずつ触っていく。
ギャップとなんとかというTシャツ2枚。
浴衣に使う半幅帯、三尺。
全部で3万弱とのこと。
お店の責任者という男性と警察官は
「お母さんは目が悪いんですか。」
と、ゆっくり確認する。
娘は何も言わない。
反省文を書かされていたようだ。
私は丁重に何度も謝り、全額を支払った。
出掛けにありったけのお金を準備してきてよかった。
お店の方は品物を持ち帰ってくれるよう言っていたけれど万引きした品など持ち帰りたくないから持って帰ってもらった。
警察官は娘の反省文を読んでいたく感動したようで、最後に二言三言注意をすると私たちを解放してくれた。
もう終電も近づいていたせいもあったけれど。
交番は駅の改札前の広いフロアの片隅にあったから、娘の腕を掴んで改札口へと黙って向かった。
警察官が顔をしまった途端、ぱっと走りだした。
私は大声で名前を何度も呼んで、逃げていった方向へ小走りしたが5~6歩しかいけない。
こんな真夜中なのに、たくさんの靴音が乱れている。
私は立ち止まって、しばらく靴音を聞いていた。
終電に乗らなくちゃ。
明日も仕事だし。
広いフロアだから改札口がどっちだか分からず、そのあたりを適当に歩き回っていた。
すると、誰かが私の杖を持つ右手の手首を持って改札口まで誘導してくれた人がいた。
「すいません。 ありがとうございます。」
その人は黙っていた。
無言だった。
「もしかして!」
名前を読んだ。
その途端、私の手を改札の方へ押しやると、ぱっと手を放して無言でどこかへ行ってしまった。
「ありがとう。待ってるから帰ってきてね。」
振り返って大声で言っていた。
終電でもたくさんの人が乗っていてびっくりしてしまった。
無言は娘にちがいない。
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