踏み出した足の下に地面がなかった。
転落して体が地面に打ちつけられる、そのわずかな瞬間
人間界では1秒にも満たないことだけれど、意識の中での時間はけっこう長い。
どうやら自分は駅を間違えて降りてしまって、
ここは自宅のある駅ではなかったらしい。
背中のリュックには、買ったばかりのパソコンが入っているから背中から落ちるわけにはいかない。
どこを犠牲にしようか? 腕から落ちよう。
階段のかどかどに肩と腕打ちつけながら、踊り場に転がり落ちた。
深夜のコンクリートの階段にバサリと乾いた音が響く。
耳は冷静にその音を聞いた。
終電だったから、誰も通る人はいない。
パソコンは大丈夫だったったはずだ。
とりあえず階段を下まで降りた。
右手で杖がうまく持てない。
酔っぱらっていて電車のなか寝てきたんで、
頭も足もぼんやりしていたが、冷たい夜風に当たり、人の世の意識が戻ってきた。
靴音がしない。
とりあえず立ちションして。
「どうしましたか?」
慌てて服を直してちゃきっとする。
巡回していた警察官だった。
ここはどこかと尋ねれば、二つ手前の駅だった。
警察官の方は、寒いからと言ってパトカーの中でパパを娘が迎えにくるまで待たせて下さったという。
二人の警察官の心遣いとパトカーの中は温かかった。
外は北風吹いてるし、杖は満足に持てない
しかも、電車はもうないし。
ありがたかった。
次第に痛みが強くなってくる。
腕を抑えながら何度も警察官にお礼を言ったという。
これは、全盲のパパのこと。
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