「一人で走ってみたいか?」
「はい、走ってみたいです。」
私が小学5年か6年の時のことだ。
新任の若い男の先生が、私たちのクラスの副担任になった。
先生はクラスの走るのが早い男子たちの肩の後ろ側に綺麗な音の鈴が2つついた安全ピンをつけてくれた。
「すずを目印に、両うでを大きく振って走れ!先生はすぐ横にいるから安心しろ。」
声の感じもいいし、話し方もカッコいい。
授業での工夫も色々してくれたから人気もあったし、私も大好きだった。
ざくっと校庭の土を蹴って、全員で7人で走り出した。
すぐ前で、聞こえていたすずの音がぐんぐん遠ざかる。
「うでを振れ!」
となりで先生がみんなに大声で言っている。
左の腕も精一杯振る。
前の逃げていくすずが、まっすぐ前と右まえの方と二つに分かれた。
「右だ!右の鈴を追え!」
あれ?と おもったら 先生の 声が とんできた。
校庭を丸く走っているからこうなるんだ。
走る前に、先生とみんなで小さな車を曳いてつけた白い線が見えてくるようだ。
お友達と手を繋いで、ゆっくり走っていると真っすぐなんだかカーブしているんだか分からないうちにスタートのところに戻ってしまう。
確かに私は今、丸い大きな円の上を走っている。
早い鈴はずっと横の向こうの方に消えていった。
「こっち こっち」
先生が手を叩きながら、ゴールで呼んでくれている。
息ははあはあ苦しかったけれど、全盲の私が一人で走れた。走ったんだ。
「もう1回、行くぞ!」
みんなは嫌がっていたけれど。
走るの、わたしも好きじゃないけれど、このすず追っかけてならもう何度も行きたかった。
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