盲人ランニングクラブでがっちり練習して、みんなでランチして電車で帰る。
日曜日の午後。
前回座席を見つけていて間違っておじさんのお膝の上に座ってしまった失敗があるから、今回は空いている席を確認して座らなきゃだ。
入線している電車に乗った。
まずは白杖でトントンっと床を叩いて、人の入りをその響きから感じ取る。
「よしっ、いけそうだ。」
手すりから指先出して、人がいるか確認すると、やっぱり座っている。
さっさと座席見つけなきゃ、このあいだのように座れずに1時間も立っていなきゃいけなくなってしまう。
いざ、覚悟を決めて右手の白杖の先で、座っている人たちの靴をコツリコツリとなでていく。
誰か教えてくれたっていいのにとも思う。
こんなことしないで、どこか空いていますか?って声出してみたら、と自分に言ってもみる。
人はいるのに、しんと静まりかえっている。
みんな私の動向をじっと見てるんだ。
でも、そんなのどうでもいい。
あっ、すき間だ。
私は席を確認しようと左手で座席をさわってみた。
「あっ!御免なさい!目が見えなかったものですから!」
慌てて左手を引っこめて、また前方の車両へと逃げこんで、開いている扉からホームへ飛びおりた。
扉はガラリ閉じられて走り出した。
セーフ!
私は20分後の電車を待つ。
足先で点ブロ(点字ブロック)をつっつきながら、1番前に並んでいる安心感にひたるんだ。
力なく溜め息が出る。
ついてない。
さっき確認したところが、確かにズボンのファスナーのところだった。
確かにふくらんでいたし。
前回はお膝の上に座っちゃって、今度はファスナーをガップリ触っちゃって。
嘘みたいだけれど、本当のはなしだ。
いやになっちゃう。
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