「おーい、ダメだって言ってるがな。おーい、こっち持ってこい!おーい、ちび!」
じいちゃん(私の父)がベッドで大声を上げている。
父は脳卒中になってしまって、家でもう何年も寝たり起きたりの生活をしている。
何事かと行ってみれば、もうすぐ2歳の娘が、じいちゃんのだいじなだいじな絵のついた将棋の本を
「わんわん、わんわん!」
と、言ってはじいちゃんのベッドに積んである本を持ってきては畳の上に広げていっている。
その将棋の本、じつは私の夫から父への御調物。
将棋の本と言って、時々ポルノ雑誌…というか、ビニ本っていうのか、男同士の友情とかで、プレゼントしていたものなんだ。
もちろん夫が全盲になってからも、この友情は続けてくれていた。
じいちゃんは夫から「将棋の本ですから勉強してください」と言われて渡されるとき、最高の優しいおばさんみたいな声を出して有難がっていた。
「でで!女の裸が出てるがな!」
ばあちゃんは、「こんなもの、つんむしちまえ!」と、本の片付けにかかる。
「わんわん。わんわん。」
むすめは無邪気に雑誌の中を指さしている。
面白がってじいちゃんの枕の横に積まれた本を持ってきては広げて、わんわんっと言ってはしゃいでいる。
じいちゃんは、返せ返せと怒鳴っている。
からだが自由にならないし、言葉も上手く出てこない。
じいちゃんは、ばかもん返せ、と、ベッドで大声を上げまくっている。
ポルノ雑誌でわんわんって、どんな写真があるのか面白いから聞いてみたかったけれど、親たちに聞くわけにもいかず。
ばあちゃんは孫娘をあやしながら、ばたばた本を拾い集めていく。
私は知ったんだ。
ばあちゃんはポルノ雑誌をつんむすどころか、じいちゃんの枕の向こう側に置いていたってことを。
よいクリスマスイブでありますように。
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