「伴走押し売り?なんですか?それ?」
もう20年前ほどにもなるだろうか。
伴走者といって盲人のためのレースに参加したり、練習のために公園やトラックで走って
くれたりするボランティアの人たちが増えてきた。
私も友達に誘われて盲人のためのランニングクラブに月に1~2度参加するようになった。
伴走者は私たちのために電車代をかけて時間をかけて東京の公園まで来てくれる。
仕事が終わってから~だとか、休日だからだ~とか言っては来てくれて、公園の中を1時間2時間と走ってくれる。
しかも早く走れる人には早く、ゆっくりな人にはゆっくりと、こちらに合わせてくれる。
私は毎回だと申し訳なくて、たまにはお菓子を買っていったり、お酒が好きだときけば小さなビンだけれどお礼を持っていったりとしていた。
「伴走すると走ってもらっているからと盲人たちは申し訳ながる。
だけれど、ほんとに自分は一人で走るのはイヤで、一緒に走ってもらうほうがいいんだ。楽しいんだ。
だから押し売りにしたら、こちらは買ってもらっている方だからね。
申し訳ながる必要はないんだよ。
もう何も持ってこないでよ。」
そういうものかと思う。
これって最高級の気遣いっていうんではないかな?
自分一人で走っていた方が面倒ではなくいいに決まっていると思っていたけれど。
そういう事ってほんとにあるんだろうか。
どうもあるらしい。
クラブのメールで『この日伴走押し売り』しますと出るとすぐに完売になってしまう。
なかなかそういう人を見つけるのは難しい。
1度走る気持ちの良さを知ってしまったらまた風を感じながら走ってみたいと思ってしまうから。
そして走り終わったら、みんなでランチに行ってひとしきりお喋りしたり、またある時はカラオケに連れて行ってくれたり、缶ビール持ち寄って宴会したりと走ること以外でもホントに楽しい時間を作ってくれる。
私は40代になって伴走者の人たちと出会えて、人生がバラ色じゃなくてメリーゴーランドの中の馬の背中の上に乗ったようだ。
伴走者って走る時だけのことじゃなくて、待ち合わせから帰る時の乗る電車の扉のところまでが伴走者なんだ。
だから目が見えなくって上手く遊んでいけない私たちの時間に楽しさの音を添えてくれる伴奏者でもあるんだと思う。
『伴走押し売り』を知った人たちの中から、
伴走押し売りする人たちが少しずつ増えていった。
目が見えなくって走ることなんてそんなにできないと思っていたのに、私たちの世界にはこんなすてきな人たちが待ってくれていた。
しかも走ることだけじゃなくて飲んだり騒いだりと色んな音をも添えてくれている。
ラッキーだ。
ほんとにラッキー。
そして私たちは少しずつタイムが良くなったり、距離が伸びてきたりとか嬉しいことが増えてくる。
それは伴走者たちとの喜びとなっていくんだ。
さ、うまく走れるようにストレッチはじめよう。
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