2018年1月30日火曜日

ザイル・続き

こんどはリュックがざくっと下がる。

「下りですよ。土で木で階段になってますから引っかからないようにね。」

左手はザイルの上側の方にずらして、次は右手のストックで次の段の位置を確認し、突きたてて右足を下ろす。
そして左足も下ろす。

私の一連の動作が終わるまでガイドさんは次のステップにはいかずに待っていてくれる。
なので盲人の登山には時間がかかってしまう。

何度か山に連れて行ってもらうようになると、ちょっとコツのようなものが分かってきた。
リュックの後ろにピタリと立って、自分のリュックも同じような動きをするようにしていく。
ジグザクの細い道なんか登って、行く時にはちょっと楽して横にひょいと行ってしまいたいところだけれど、ガイドさんのリュックにおんぶしているように同じように体の動きを合わせていく。

「目が見えないのによくそんなに歩けるね。見えているように歩いているよ。」

後ろから歩いている人たちからそんな風に言ってもらえるほどにカンタンな道では早くも歩けるようになった。

私は靴底で山肌の景色を撫でていっているけれど、周りの目のみえる人たちがあげる歓声、向こうの山がくっきりきれい!
かわいい花咲いてるよ!
すっごい崖!
などなど。。。

みんなが口にする言葉が耳の景色となっていく。
だから感動は口に出して言ってほしい。

時には、

「触れるよ。ほら、触ってみて!」

と、草や石や倒れかかった木や変な形の葉っぱやコケなんかしゃがみこんで触らせてもらう。

指先で感触を味わっていると色や大きさや形やらをおなじ目線じゃなくて耳せんで教えてくれる。
横目で見ながら通り過ぎていくよりか、こうして一緒にしゃがみこんで説明してもらえるなんて何て幸せなことなんだろうかと思う。

静かな山の中、何だか嬉しくって、まぶたも指先も熱くなってきて涙が出てきそうで困ってしまうほどの幸せな時間だ。

山の中ではたくさんの登山客とすれちがう。
私たちのガイドをしてくれているボランティアのガイドの人たち。

自分たちだけならラクラクひょいひょい登ることができるのに時間のかかる私たちとこうして歩いていてくれる。
しかも家族とかでもないのに。

いい人たちってほんとにこうしていてくれる。
そういう人たちと出会えた私は最高幸せだ。

最近山に行っていなかったので行ってみたくなってしまった。

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