私はコーヒーの紙コップを両手で抑えながら夢中になって話をしていた。
若いころの話やらランニングのことやら楽しかったことの話をしていたんだ。
うん、うんと1本調子の返事をしてくれている。
私の口からは次から次へと面白かったことなんかも交えて思い出はとまらない。
でもおかしい。
しゃべりながらも返事を聞いている耳と頭の脳たちが違和感を感じ始めていたんだ。
うんうんの返事の矢印はどうやら下の方に向いているようだ。
そっか。スマホ見てるんだって思った。
スマホ見ながらだって人の話は聞くことはできるんだから私がくさることはないんだけれど。
少し前、お相撲の世界でも、お叱りを受けているさなか、スマホを見ていたからっていうんで頭にけがをしたおすもうさんがいたっけ。
だから目の見える人たちの世界でも人の話を聞きながらスマホを見るってことは普通にあるのかもしれない。
私はゆっくりおしゃべりにブレーキをかけて、冷めたコーヒーをのんだ。
さわさわと洋服のすれる音がしてそれでっと声の矢印が私のほうにむいた。
スマホしまったんだろう。
声も明るく、抑揚がついてきた。
返事の矢印の先っちょが私のおしゃべり風船にプチンっと穴をあけてしまったようだ。
私が全盲だからわかんないだろうと思って安心してスマホみていたのか、目が見える人の前でもそういうことをしているのか、それはわからないけれど、なんだかがっかり。
すっかり疲れてしまった。
でもそういう私も学生のとき、全盲の先生のときには安心して寝ていたんだから50歩100歩なのかもしれないけど。
私はこういうことしないようにしようっておもう。
音をたてなければ分からないと思っている人も多いようだけれど結構気づいていたりするからあなどれません。
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