2018年1月12日金曜日

成人式

忘れたいと思っているのにちっとも忘れることができないこと。
忌まわしい成人式のこと。

お着物の着付けやら美容院でのセットは夜明け前から準備しに母が連れていってくれたからそれはまあよかった。
私は7歳のときから目が見えなくなって盲学校へ行ってしまったから、ここ地元では小学校1年生の1学期しか通っていなかったからほとんど知り合いも友達もいなかった。

母は町内で行われる成人式の祝賀会に私を参加させたくてしょうがなかった。
私自身もお振袖のお着物を着てみたかったこともあったから気乗りはしなかったんだけれどどんなものかもしらないから参加することにしたんだ。

母は車に乗れなかったから、美容院までタクシーを呼んで一緒に街の公民館まで飛ばしていった。

お天気は良かったけれどとっても寒い日だった。
公民館の入り口の前の広場では大勢の若者たちが幾つものグループつくって大騒ぎをしていた。
町内にはいくつかの小学校や中学校があったから

「西中の3組の人~!八幡の6年2組~!」

などと呼んでいたりもしていた。
周りには親たちもいたんだろうか?
若者たちの大騒ぎのなか、私は振袖に歩きにくい草履をひっかけて持ちたくはなかった白杖を持って、母の腕にはつかまらずにぼんやり立っていた。

来るんじゃなかった。
誰一人知り合いもいないし、一人で歩いていくこともできないんだし。
祝賀会が始まるというので、いよいよホールのほうへと移動することになった。

入り口のところには受付があってみんな記念品をもらうことができる。

そこへ運良く、親せきのまゆみちゃんが来たんだ。
母の方のいとこがいたんだ。

だけどめったに行き来もしてなかったし、話をしたことだってほとんどなかったんだ。 母はわらをも掴む思いでまゆみちゃんに声をかけて受付の名前をかけとか私をホールの中の椅子まで連れていけとか言って、しかも「金やるからよ、連れてってくんな。」なんて言っているんだ。

彼女は大人しく、はっきり言わない無口な子でいいともいやとも言わないんだ。
だけど明らかに嫌がっているのがわかる。
しゃべらず、うーんとしか言わない。

まゆみちゃんが友達とホールの方へ行こうとするから母は私の手を掴んで、まゆみちゃんの着物の肩に掴まらせたんだ。

悔しくって悔しくって、それにお着物それも振袖のお着物着ているのに杖なんか持ちたくないし。
嫌がる人の肩につかまっているのだって苦痛だ。

まゆみちゃんは無口なのに右肩はあっちへいけとばかりにひじてつじゃなくてかたてつする。

でも会場へは母は入って来なかったから、どうしようもなかったんだ。
まゆみちゃんとお友達はぼそぼそ何か話していたけれど、空いているイスのところにきたら「ここ」とだけ言って二人はどこかへ行ってしまった。

記念品は重たかった。
ぶ厚いアルバムみたいだ。
それと小さな子箱がはいっていた。

紙袋はイスの下に置いて、杖は折りたたんでその中に入れておいた。

今日は特別なお化粧を美容師さんにしてもらっている。

何回もおしろいをたたいてもらってきた。
慣れないビューラーだってまぶたを挟みながら何度もして、冷たいマスカラだってしてもらって来ているから泣いちゃいけない。
顔を触っちゃダメと言われてきている。
母は外で何枚も私の写真を撮っていた。
うしろからだって撮っていた。

少なくても母は喜んで見ていてくれてるし、帰ればベッドで寝たきりの父にもこの姿見せてあげなくちゃだ。
これが親孝行ってものなんだろう。

何人もの挨拶が終わってぼんやりしていたら騒がしくなって解散になったらしい。
イスの音ががたがたしてみんな賑やかな声は後ろ扉の方へと集まり、遠ざかっていった。

私は杖を1本に伸ばして、イスの間を後ろの方へと歩いていった。
とびらに近づくと、母が私の手首をつかんで「なんかうめえもんでもくってぐべ。」と言った。

公民館は駅のそばだったから、駅前のたまに行ったことのある食堂までゆっくり歩いていってオムライスを食べたんだ。

帰りもタクシーに乗って急ぎ戻り、父に私の晴れ姿と笑顔をみてもらった。

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