2018年1月7日日曜日

スケート

スケートセンターに入ると外よりも更に寒い。
ポールモーリアの音楽が流れているのに空気までも静かだ。
音まで凍らせてしまっているようだ。

私たち生徒はカウンターでフィギュアのスケート靴を借りて友達の肩に掴まって、指定されたベンチに移動していく。
もたもた靴をはき替えたり、クラスメイトとおしゃべりしているともう滑り出している人がいる。

ザザーっとエッジを滑らせている音が響いてくる。

「おーい!」

リンクの脇から誰かが私の彼の名前を呼んでいる。
彼って今の私の夫、パパのこと。

彼は自分のスケート靴を持っているからいち早く滑り出すことができる。
朝イチのリンクの氷はツルツルで硬くていいらしい。
最高のコンデションらしいんだ。それにみんながいないから貸切状態だからスピードを上げることができる。
視野が狭いから、みんなが滑り出したら危ないから。

私の通っていた盲学校は小学生から専門科の人たちまで体育の授業の一貫で冬に何度か一日かけてスケート教室っていうのがある。

全盲のわたしも杖を持たずにリンクの上を滑らなくてはならないんだ。
もちろんわたしは運動嫌いだしだから、もっぱら手すり磨き。

右手で木の大きな手すりに手を置いておいては、ちょっと放してみたりしながら2~3歩進んでみたりもする。
たまには先生が声をかけてくれると手を繋いでもらってリンクの内側まで連れていってもらって一緒に滑ってもらうんだ。

手すりみがきしながら内側で滑りすぎていく人たちの音を聞いている。
何回かに1回はあの人の音のはずだ。

目が見えたらなってこんなときに思う。姿をみていたり、通りすぎていく時、
ちょっと手を挙げたりできたら素敵なのに。

入り口のところに自販機があったから、自分でホットコーヒーなんか買って先輩たちのところまで届ることができたらなあなんて思う。

全く周りが見えないってことはほんとつまらない。
缶コーヒー一つ買いに行けないんだからつまんない。
友達に頼めば冷やかされてイヤだし、後でなんて言われるか。

スケート教室はお弁当食べて午後もつずく。
休憩時間、友達と缶コーヒーを買いにいった。
お金を渡してボタンを押してもらって、ゴトリと音のしたところからは自分でかがんで取りだす。買ったのは自分のだけ。
弱視の友達はお気にいりの先輩のぶんも買って私をベンチのところまで送っていくと、

「ちょっと渡してくるね。」
と言って行ってしまった。
缶コーヒーから温かさを分けてもらいながら全盲はまったく不自由だなってしみじみ思ってしまう。
杖もっていたって何の役にも立たないやとまた思ってしまう。
熱いうちにコーヒー飲むことにしよう。

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