2018年1月18日木曜日

終電

武蔵野線から乗り換えて東上線の朝霞台駅。
乗り遅れたら大変だ。終電がくる。

「まもなく終電が参ります。」

改札口へ入る手前でホームのアナウンスが聞くえてきた。
急げ!人気は少ない。
こちら全盲だって勝手知ったる朝霞台駅。
杖は持ってはいるけれど、床を確認するようなしないような。
空にとどめおいて浮かせたまま。右側にまわりこんで階段おりたら下りホーム。

来た!終電だ!酔っぱらっていたって階段なんか踏み外しはしない。
階段降りきって3歩踏み出して左に乗りこめば電車の扉のなかに飛びのれるはず。
それダッシュ!ホームを蹴って車内へ?

ホーム左側は4番線急行列車が来ているはずだった。
ホームから転落しながら背中の後ろ3番線に各駅停車の終電がゆっくり止まるところだった。左側からこちらに向かってくる終電車の音がみるみる大きくなってくる。

何やら駅員さんが大声を出しているのが遠く聞こえる。
ビールや焼酎が一瞬のうちに頭の中から蒸発していった。

そこは真空の世界だった。車輪の音が射程内に入った。
そのとき血管内の全部の扉が音を立てて開き、血液たちは一つのバネとなって大地を蹴り、80キロの体を跳ね上げた。

「で、どうしたの?」

わたしは息を飲んで聞いた。

「ホームに飛び乗ったら、すぐ急行が後ろを通り過ぎていったんだ。そしたらすぐにアナウンスで人が線路内に立ち入ったので安全確認しますって言っていたんでおしっこしにいってさ。こちらは全身確認してたわけ。そんでまだ電車止まっていたから終電にゆうゆう乗って帰ってきたんだよ。」

まったくもう。パパのはなしなんだ。

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