2018年2月15日木曜日

遺影

父の家族葬がすんで、供えられていた果物を
弟たちと分け合ってから
娘の車に乗り込んだ。

隣には母が紙袋を抱えて座った。

「あれ?これなあに?」

「とうちゃんの写真だがな。」

と。プラスチックの細い枠に
入った額を取り出して眺めている。

私はつるつるした表面をなでてみた。

「なんかよ。父ちゃん死んでくれたら
やっと好きになれてきたで。」

「え?生きてた時はきらいだったの?
じゃなんで離婚しなかったの?」

「離縁なんちゅうのは、
字が書けるもんがするもんだで。

若けえ頃は博打べえしててよ。

金がありゃ飲んじまうし、
家建てりゃすぐに脳溢血で
30年も寝たっきりになっちまうしよ。」

好きになれるって?
死んでくれたから好きになれるって?

「いい顔してるがな。
この写真、大事にするで。」

父と生活して50年。

ほっとしている。

父が50歳のときに脳卒中で寝たきりになって
それから30年は介護の日々だった。

若いころはギャンブルにお酒、
おまけに私が全盲になったり
と苦労は絶えなかったんだろう。

これからは物理的な肉体的な苦労からは
解放されて父を好きになっていくんだろう。

そんなこと言っていたのに
母は2年も待たせずに父の傍に
呼ばれて行ってしまったんだ。


今日は母の誕生日だった。

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