2018年2月19日月曜日

通勤ダッシュ

あと15分しかない。
7時18分には
電車には乗らなくてはならない。

川越に住んでいた時は、
駅が遠くて歩いて20分位もかかってしまう。

子供たちがなかなか起きてくれないから
家を出るのが遅くなってしまった。

私は全身耳にして
左肘を顔の前に出して防御姿勢をとる。

白杖はがっちり握って
おなかの真ん中に構えて

手首を中心にグリップきかせて
杖の先を左右へぴゅっぴゅっと
空気を切る音がするほどに
激しく急いで振り動かす。

駅までの道には
あちこちに電柱やら
鉄のポールや看板、放置自転車が
わんさか置き去りになっている。

目さえみえれば何てことなく、
それらの脇を走り抜けて
行くことができるのに。

杖の先を忙しく振りながら
道路の端やら脇の影やら確認していく。

もっと早く歩かないと間に合わない。

お、前の方に、ごとりごとりと
男性の靴らしい重たい音がする。

「あの、駅まで行かれますか?

あの、私目が見えないんですけれど、
柱や自転車で駅に上がっていく階段が
うまく見つけられないんで
一緒に行っていただけますか?

あの18分に乗りたいんで
ちょっと急いで一緒に走っていただけますか?

すいません。
ありがとうございます。
助かりました。」


私はかなり強引に、
その男性の側に行き
手を前に出して腕を見つけて

元気な声と
急いでいる気持と
勢いと
で腕にしがみついていく。

朝から私の餌食になってしまった
可愛そうな男性は勢いに押されて、

「はいっ」

と言って、

18分ですね

と時計を見ながら
小走りして誘導して行って下さる。

やったあ。

これで間に合いそうだ。
本当良かった。

「ありがとうございます。
これで遅刻せずに済みます。

本当助かりました。

急に走ってくださり
ありがとうございます。」

走りながらずっとお礼を言い続ける。

右へ曲がった。

歩道にあがって、
自転車畑の脇をとおって階段がある。

ここまで来たら、もう大丈夫。

もう一度お礼を言って、
駅へと続く階段の手すりを確認しながら、

一人でダッシュで登っていく。

「15分です。」

音声時計を押して、
時間を聞きながら改札を抜けていく。

ホームのアナウンスが聞こえてくる。

あの男性のおかげで、
乗り遅れずに済んだ。

ラッキーだった。

何人もの方にこんなお願いをして
助けてもらってきた。

世の中には、
私の住んでいた町には、
こんなにも親切な方たちがたくさんいらした。

お手伝いしてもらえた私は
なんてラッキーだったんだろう。

今では50代のお年頃なので、
たっぷり時間見て家を出ているんで、
ゆっくり歩いて行っている。


やっぱり若い時だったからできていたんだろう。

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