2018年2月21日水曜日

お金が貯まったから

62歳の上品な女性が脳卒中で倒れ、
病状が安定したので、リハビリをしにやってきた。

言葉は普通に話すことができた。
でも半身に軽いマヒが残っているので
移動は車いすで行っていた。

「去年やっとお金が貯まったんで家を建てたのよ。
2階にキッチンとお風呂を作ったのよ。

バルコニーもちょっと広くてね。
お花をたくさん置いていたのよ。

息子はパンが好きだから、
しょっちゅう焼いてあげていたの。

なのに、1年も住んでいないのに
こんな病気になってしまって。

車いすだから、お2階に上がれないし、
お風呂にも入れないのよ。

1階に私たちの寝室があるので、
ずっとそこにいたの。

息子はお料理しないでしょ。
毎日コンビニで、おにぎりやサンドイッチ
買ってきてくれるんだけれど。

お2階に連れて行って。
と頼んだら

おんぶしなくちゃだし。
腰痛くなるから嫌だ。
って言われちゃったの。

私のことが面倒になったから
ここに連れて来られてしまったの。

娘じゃないから
体拭いてもらうこともできないし。
息子も嫌がるしね。」

昨日も、その前の日も
同じこと言って泣いていた。

歩く練習をするための平行棒は窓際にあって、
その窓のむこうには、
立派な梅の木があるとのこと。
とても綺麗な梅の花をつけるらしい。

「梅のお花とても綺麗よ。」

女性は平行棒の真ん中あたりにくると、
窓の方を見ては立ち止まっている。

「こんなことだったらお金をお借りして、
家を建てておくんだったわ。
私、病気になるなんて
夢にも思ってなかったのよ。」

ほぼ現金で家を建てた。とのこと。

間取りの話し合いをしていた時が、
人生で一番楽しかったと言っていた。

「毎回ねハウスメーカーの方には、
ケーキ焼いたり、プリンお出ししていたので、
とても喜ばれていたのよ。」

これに似た話は、
ここ老人病院では良く聞く話の一つだ。
私はマッサージしながら患者さん達のこんな話を聞く。

なんとも返事のしようがない。
してあげようもない。かわいそうだ。

ただ私はお金が貯まったらは、よくないんだろう。
と感じていた。

私が30代の時に勤めていた老人病院でのことだ。


「梅の花が咲き始めた。」


なんて聞くと、
やっとの思いで建てた家に、
病気になってしまって
住めなくなってしまった人達のことを
思い出してしまう。

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