2018年5月25日金曜日

付加価値

こんな風に暑い日には
お母ちゃんの麴漬けのきゅうりやら 
カリフラワー食べたくなる。

お母ちゃんは冷蔵庫の中から
大きな大きなたっぱを取り出す。
 
糠のようなものの上に
網が乗せてある。

網の上に水が溜まっていると
紙で丁寧に吸い取らせていく。

お母ちゃんの漬物は 
糠じゃなくて麴なんだ。

違いは私には
良く分からないけれど
臭くない。

麴どこの中から茄子やら
カリフラワー、人参、胡瓜 
色んなものが掘り出されていく。

変わって、板刷りされた
ピチピチの胡瓜、茄子なんかを
埋め込んでいく。

冷たくて大振りに切られた
麴漬けの胡瓜、茄子 
漬かり過ぎない所が最高。

本当に美味しい。
カリフラワーはこりこり
こちらも最高。

文字を読めないお母ちゃんは
すぐ裏にできたゴルフ場で 
キャディーさんとして
30年も働き続けてきた。

夏になると
家を出るのが6時すぎ。

2ラウンドあると
帰りは19時半頃になってしまう。 

お客さんの為にと
お客さんが喜んでくれるからと
毎朝欠かさず麴漬けの漬物と
レモンの砂糖漬けを持って行った。

流しに竹で編んだざるに
塩で磨かれたレモンが
ごろごろ乗っている。

「いじくるんじゃあねぇで
お客さんにやるんだからよ。」
 
レモンはごく薄く上手に切られて
たっぱの中に砂糖と蜂蜜と入れられて 
冷蔵庫で冷やされる。

夏の夜。
たっぱに残ったレモンの汁に
氷を入れてレモン水を
作ってくれた。

お母ちゃんも一緒に飲んでいた。

「おらぁ。学もねぇからよ。
口も割りぃだんべ?
だからよ。字も読めねぇしよ。」

「じゃあ伝票書く時なんかどうすんの?」
 
「お客さんに頼んで
書いてもらんだで。

たまにな。字が書けねんかい!
って馬鹿にするもんもいるけんど
そんなときゃマスターに書いてもらんだで。」

仕事から帰ってくると
「今日のチップはこれだで。」
と言って、
私達子供の前に並べてみせる。

栄太郎のかりんとう 
葉っぱの形のゴーフル
お煎餅、乾麺のうどん
海苔、みつ豆の缶詰

「朝早くから
よいじゃあない(大変な)んだから
漬物なんか持ってかなくたって
いいじゃないの?

レモンなんて自分達で
作ってくればいいじゃないの

なんでお母ちゃんが
持ってかなくっちゃなんないのよ。
しかも毎日なんてさ。」

そんな事ばかり言っていた私。 

「同じお客さんがなんべん(何回)も来てくれるんだでえ。

漬物貰ったんと
貰わなかったお客さんがいたら
悪ぃだんべが。

おれにはくんねんかい(くれないの?)って
言われっちゃあで(いわれちゃうよ)。」

お母ちゃんは美味しい麴漬けと
蜂蜜レモンで自分の価値を
高めていたんだろう。

山ほどのチップはそれの証にちがいないんだ。

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