2018年8月8日水曜日

居酒屋へ

私は全盲。 

全盲を何年していても 
慣れるって事は無いらしい。


ある日の事…

なんだか気分が良くて 
地元の駅前の”やきとん”屋さんへ
行きたくなってしまった。 


会社を出る時に 
パパ(夫)に
『たまには2人で駅前の
やきとん食べに行こう』

・・・と電話をしておいた。


地元の駅から自宅までの間に
いつも良い匂いがする
やきとん屋さんがある。 

白杖の音を聞きつけて 
パパが「お帰り〜」と駅で
待っていてくれた。 

二人だけで出かけるのは 
30年ぶりくらい。 

私:『入口わかる?』 
夫:「わかんないよお。」 
私:「席に案内してくれるかなあ?」 
夫:「店にはいれさえすれば 
   案内してくれるよ。」 
私:「でも、カウンター席
   空いてなかったら 
   上手く注文できないしねえ」
夫:「じゃ、やっぱ
   家で何か食べようか?」 

二人で白杖の音を
コツコツ立てながら 
諦めて家に戻ることにした…


”やきとん”の
良い匂いがしてくる… 

お金だって、
ちゃんと持っているし、 
お腹だって空いている… 

私達は居酒屋の 
扉を見つける事が出来ない…



・・・全盲同士。



そういえば最近は 
こんな風に感じることが 
無かったっけ。 


外に出る時には 
ガイドさんお願いしているし、 
あとは子供たちが居たし… 

あんまり困る事もなかった。 

・・・弱虫になったものだ。
 


何で・・・

さっき通りすがりの人の
靴の音・・・・
聞こえていたのに… 

「居酒屋さんの扉教えて下さいっ!」て 
聞く事が出来なかったんだろう。 


何でこんなに 
ハラハラと生水の様な 
涙が落ちて来るんだろう。

気分は台無しだ。

 
少し先を歩いている 
パパのサンダルの音が 

ザッザッと
路地に響いてる。 


ゆるい風が流れていく… 

今日も猛暑だったっけ。



やっぱり”やきとん”食べたい。 


ずっと太らない様にと 
食べないようにして
いたせいだか 


無性に食べたい。 


・・・やっぱ行こう。
・・・行ってみよう! 


私:『ね!パパ!
   やっぱ行こうよ!
   行ってみようよ!!』

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