今から25年前のこと。
私は中野区の老人病院に
マッサージ師として働いていた。
3階から5階は入院病棟。
3階の一番奥の部屋には
女性部屋で6人ほどが入院していた。
手足の関節の可動域確保と
マッサージの指示の出ている
奥のベッドの患者さんの所へ行く。
あぁ。また叫びだした。
やせ形で背の高い
声の綺麗な80代の女性。
ぼけてしまうのなら
それも仕方ないけれど
言葉も一緒に忘れてしまえたなら
どれほどか良かったのに。
「お◯◯こ お◯◯こぉお
してー。したいよお。
お◯◯こぉ。
あーあああ。お◯◯こしてちょうだいよお。」
それも大きな声で。
聞くに耐えない。
「さっきも若いドクター来てて
真っ赤な顔してすぐに帰っちゃったよお。」
どんな顔していたらよいのか分からない。
私がその方の病衣の袖を
たくしあげて
腕の関節運動をしようと思うと
私の手をがっちり掴んで
股の方へと持っていこうとする。
最初こそびっくりしてしまったけれど
慣れてきてしまうものらしい。
私はおむつの上を
とんとんと軽く叩いてあげて
「さあ。手を上げてみましょうか?」
と、言ってから初められるようになった。
それにしても言葉を残したまま
ぼけてしまって
こんなふうにあらぬことを
叫ぶようになってしまったら
子供たちがかわいそうだ。
お見舞いにきてくれた
子供やら孫たちに
はずかしい思いをさせてしまう。
どうしたらよいものか。
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