2018年9月12日水曜日

お◯◯こ

今から25年前のこと。
私は中野区の老人病院に
マッサージ師として働いていた。

3階から5階は入院病棟。
3階の一番奥の部屋には
女性部屋で6人ほどが入院していた。

手足の関節の可動域確保と
マッサージの指示の出ている
奥のベッドの患者さんの所へ行く。

あぁ。また叫びだした。

やせ形で背の高い 
声の綺麗な80代の女性。


ぼけてしまうのなら
それも仕方ないけれど
言葉も一緒に忘れてしまえたなら
どれほどか良かったのに。


「お◯◯こ お◯◯こぉお
してー。したいよお。
お◯◯こぉ。
あーあああ。お◯◯こしてちょうだいよお。」


それも大きな声で。
聞くに耐えない。


「さっきも若いドクター来てて
真っ赤な顔してすぐに帰っちゃったよお。

どんな顔していたらよいのか分からない。 


私がその方の病衣の袖を
たくしあげて
腕の関節運動をしようと思うと 
私の手をがっちり掴んで
股の方へと持っていこうとする。

最初こそびっくりしてしまったけれど
慣れてきてしまうものらしい。

私はおむつの上を
とんとんと軽く叩いてあげて 

「さあ。手を上げてみましょうか?」
と、言ってから初められるようになった。

それにしても言葉を残したまま
ぼけてしまって
こんなふうにあらぬことを
叫ぶようになってしまったら
子供たちがかわいそうだ。 
  
お見舞いにきてくれた
子供やら孫たちに
はずかしい思いをさせてしまう。
どうしたらよいものか。

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