2018年9月16日日曜日

春琴抄

お琴とお三味線の師匠さんだった
全盲の 鵙屋琴(もずやこと)さんは
関西でも
有名で春琴(しゅんきん)と呼ばれていた。

目の見える人達の弟子もいた。 

世の常で妬まれたかなにかで
37歳の時、寝屋に忍んで来た者に 
美しい顔へ熱湯をかけられてしまう。

お師匠さんが夢にうなされているのかと
身の回りの世話をしていた
佐助が
飛んでいったけれどどうにもならない。

火傷の跡が乾くまでに
2か月もかかってしまった。

気位も高く、わがまま放題で
生きてきたお琴さんは9歳までは
眼が見えていたので自分の美しさを良く知っていた。

「もう誰にも会いとうはない。」
と布で顔を覆って引きこもってしまった。

佐助はお琴さんの身の回りの世話を
15歳の時から身を粉にして尽くしてきている。

「佐助はまた美しい弟子を
女中をその眼で見てきたのであろう 」


佐助がいっくら否定しても
歪んでしまった気持ちは
どうすることもできなかった。

全盲のお師匠さんの事を
ずっと愛してきた佐助は
つらかった。 

ある日、佐助は縫い針で
両目の黒目をぷつりと突いて
自ら視力を捨てた。

「お師匠さん。私もお師匠さんと同じ
暗闇の世界におります。
私が知っているのは美しいお師匠さんの
お顔しか知りません

これからも不自由ではありますが
お仕えいたします。」と。

これは谷崎潤一郎の「春琴抄」という有名な作品。

明治時代の話。 
お琴さんは佐助の手を握り
「本当?ありがとう。」と言って
二人で喜んだと書いてあった。

本当に本当?

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