お琴とお三味線の師匠さんだった
全盲の 鵙屋琴(もずやこと)さんは
関西でも有名で春琴(しゅんきん)と呼ばれていた。
目の見える人達の弟子もいた。
世の常で妬まれたかなにかで
37歳の時、寝屋に忍んで来た者に
美しい顔へ熱湯をかけられてしまう。
お師匠さんが夢にうなされているのかと
身の回りの世話をしていた佐助が
飛んでいったけれどどうにもならない。
火傷の跡が乾くまでに
2か月もかかってしまった。
気位も高く、わがまま放題で
生きてきたお琴さんは9歳までは
眼が見えていたので自分の美しさを良く知っていた。
「もう誰にも会いとうはない。」
と布で顔を覆って引きこもってしまった。
佐助はお琴さんの身の回りの世話を
15歳の時から身を粉にして尽くしてきている。
「佐助はまた美しい弟子を
女中をその眼で見てきたのであろう 」
佐助がいっくら否定しても
歪んでしまった気持ちは
どうすることもできなかった。
全盲のお師匠さんの事を
ずっと愛してきた佐助はつらかった。
ある日、佐助は縫い針で
両目の黒目をぷつりと突いて
自ら視力を捨てた。
「お師匠さん。私もお師匠さんと同じ
暗闇の世界におります。
私が知っているのは美しいお師匠さんの
お顔しか知りません。
これからも不自由ではありますが
お仕えいたします。」と。
これは谷崎潤一郎の「春琴抄」という有名な作品。
明治時代の話。
お琴さんは佐助の手を握り
「本当?ありがとう。」と言って
二人で喜んだと書いてあった。
本当に本当?
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